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福岡高等裁判所 昭和57年(う)793号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山口親男が差し出した控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し次のとおり判断する。

所論は、要するに、被告人は対面信号機が青色の燈火信号のときに原判示の交差点に入つて通行したのに、原判決がその判示のとおりの信号無視の事実を認定したのは事実を誤認したものであり、その誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかし、原判決の挙示する関係証拠によると、原判示のとおりの事実を優に認めることができ、記録を精査し、当審における事実取調べの結果に徴しても、原判決の右事実の認定に誤りがあるものということはできない。すなわち、右関係証拠、殊に、証人森本時夫、同来島美光、同友成公治、同三浦賢吾の原審公判廷における各供述によると、当時大分警察署に勤務していた警察官である右証人らは、原判示の日時、場所で同判示の交差点(以下、「本件交差点」という。)における信号無視と横断歩行者妨害とを対象に交通取締りに従事していた際、現認係の森本時夫及び来島美光において遊歩公園緑地帯方面(南方)から同判示の自動車(以下、「被告人車」という。)を運転してきた被告人が信号機の表示する赤色の燈火信号に従わないで本件交差点に進入し左折通行するのを現認したので、停止係の友成公治及び三浦賢吾に連絡し、右停止係において被告人を停止させ、信号無視で検挙した旨供述しているところ、その供述内容に現われている現認状況をさらに子細にみると、森本時夫及び来島美光が、本件交差点の西南角の歩道上に位置し、遊歩公園緑地帯方面から進行してくる車両については、その対面信号機の表示が赤色の燈火信号になるのを確認してから、振り向くようにして右方面から進行してくる車両を見る要領で取締りにあたり、被告人車についても右要領で現認したが、初めて被告人車を見たとき、被告人車は、本件交差点の南側横断歩道の手前約六メートルの地点にあり、被告人車の前後に近接した他の車両はなく、そのまま二〇キロメートルないし三〇キロメートル毎時位の速度で本件交差点に進入し左折通行していくので、森本時夫において停止係に対し無線で被告人車の登録番号、車種、色、違反種別などを連絡したというのであり、また、被告人を停止させた状況は、森本時夫及び来島美光から約六〇メートル西方の歩道端に位置していた友成公治及び三浦賢吾が、森本時夫からの右無線連絡を受けて、本件交差点を左折進行してくる被告人車を認めたので、これを停止させたというのであつて、以上のような現認状況及び停止状況に関する供述内容には、作為のあとが見受けられないことはもとより、被告人車を他の車両と誤認するような余地もうかがえず、原審裁判所の検証調書により明らかな本件現場の実況に照らしても、その信用性を疑わせるような不自然、不合理な点は見当たらないので、原判示の事実は、前記証人らの公判供述を含む原判決挙示の関係証拠によりこれを認めるに十分である。もつとも、被告人の司法警察員(二通)及び検察官に対する各供述調書並びに被告人の原審及び当審公判廷における各供述中には所論に副う部分が存するが、右所論に副う部分は、前記証人らの公判供述と対比していずれも到底信用することができず、原判決も、原判示の事実からすると、証拠として挙示している被告人の司法警察員(昭和五六年九月一一日付)及び検察官に対する各供述調書並びに被告人の原審公判廷における供述のうち右信用することができない部分をいずれも採用しない趣旨であることは明らかである。論旨は理由がない。

(なお、原判決二枚目表八行目に「同法一八条」とあるのは「刑法一八条」の誤記であると認められる。)

よつて、刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用については同法第一八一条第一項本文により全部これを被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

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